「ひろば」532号 発行
2025.09.25|広報誌
特集
原子力に関する世界の潮流と安全対策 ~原子力の最大限活用で世界に貢献~
東京科学大学 総合研究院 ゼロカーボンエネルギー研究所 特定教授 奈良林 直氏
(本文要約)
・2023年12月2日、COP28(UAEドバイ)において、日本を含む22カ国が「2050年までに、2020年比で世界全体の原子力発電容量を3倍にする」旨の共同宣言を発表した(翌日にはアルメニアも賛同)。また、2025年2月18日に閣議決定された第7次エネルギー基本計画では従来の「可能な限り原子力依存度を低減する」という文言が削除され、新たな安全メカニズムを盛り込んだ次世代革新炉の研究開発を進めるとともに、次世代革新炉への建て替えの具体化を進めていくとしている。
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・2020年、日本の太陽光の発電能力は67GWであり、100万kWの原子力発電所67基分に相当する。中国、米国に次いで世界第3位の太陽光発電大国である。しかし大事なのは、CO₂排出係数(1kWhの電気を発電したとき何gのCO₂が発生したかを示す数値)のランキングだ。日本は米国以降の下位グループに並んでいる。日本は1kWの湯沸かしポットを1時間使うとペットボトルおよそ1本分の534gのCO₂を排出する国なのだ。一方、このランキングで最も排出係数が少ない国々(ノルウェー、スイス、スウェーデン、フランス、カナダ)が存在する。ノルウェーは水力がほぼ100%の国。スイス、スウェーデン、フランス、カナダは水力や原子力が主力電源の国々である。これらの国の排出係数は、現在の日本の排出係数534gの約1/10ほどである。つまり、CO₂の排出を劇的に減らしているのは、水力と原子力を主力電源にしている国々なのである。
・次に、なぜ太陽光が力不足かを説明する。1日晴天の場合の1日の太陽光の発電出力を解析すると、100%の出力で24時間発電できる原子力発電と比べ、32%の電気量しか得られないことがわかる。さらに日本は晴天率が約50%であることから、設備利用率は最大で16%が限度である。その低い設備利用率の太陽光で、日本が必要とする全電力を賄おうとすると、国の電力需要の770%もの膨大な設備容量の太陽光パネルが必要となり、送電線の増強などのシステムコストを考慮すると、ざっと1000兆円の国家予算が必要となる。「太陽光があれば、原発はいらない」という主張は、国家財政的に不可能だ。
・COP28における「原子力3倍化宣言」後の各国の動向を示す。◎日本/国内メーカーが革新軽水炉の開発に注力する一方、日本機械学会にはIAEAから高速炉や高温ガス炉の規格類、免震技術普及の協力要請が来ている。◎米国/発電および小型モジュール炉(SMR)を含む次世代革新炉などの革新的技術の推進に取り組んでいる。◎フランス/2023年12月、日本とフランスを結ぶ10年間の特別なパートナーシップの枠組みにおいて、二国間協力の新たなロードマップを公表。原子力分野においては、次世代革新炉開発、サプライチェーンの強化、福島第一原子力発電所の廃炉実施に向けた協力などの民生原子力分野の協力の深化に合意。◎英国/2023年7〜8月、サイズウェルC原発の建設準備を加速すべく、主要機器の調達や労働力の確保などに向けて、合計5.11億ポンドを拠出することを表明。◎イタリア/チョルノービリ(チェルノブイリ)原子力発電所の事故を受け、1990年に国内すべての原発を閉鎖したが、2023年9月、イタリアにおける原子力エネルギー利用の再開を可能にし、国内の原子力産業を成長させるための政策方針を一定期間に定めるべく、新たな検討プラットフォームを立ち上げる。◎スウェーデン/2023年10月、現行法(2010年成立)における「運転中の原子炉の数を最大10基に制限」等の文言撤廃を決定。2035年までに少なくとも大型炉2基分の原子力発電設備を建設し、2045年までに新たに大型原子炉10基分の設備を追加するロードマップを発表。
・筆者は2023年11月28日から30日まで、パリで開催された世界原子力展(WNE2023)に東京工業大学発ベンチャーGX ENERGY Ltd.として出展展示した。また、11月29日、フランスの NUVIA社と共同で開発中の負荷追従型GX BWR‒1000の基本概念についてプレゼンを行った。その概要は、負荷追従運転を可能にする原子炉内蔵型再循環ポンプ(RIP)を原子炉底部に設置し、制御棒駆動機構(CRD)を原子炉上部に移動。さらに、次世代革新炉の原子力建屋自体を鋼製の船殻構造とし、格納容器冷却系と免震ゴムを取り付けることで、立地要件の地震や耐震評価を不要とし、原子力発電所の建設コストや建設期間の大幅削減が可能。
・2025年7月9日に開催された岩手県の「北上地区エネルギー懇談会」において、筆者は2024年12月に営業運転に入った東北電力女川原子力発電所と、事故を起こした東京電力福島第一原子力発電所の比較を行い、敷地高さの約5mの差が、2つの発電所の明暗を分けたことを説明した。東北電力は従来、社内委員会で東北大学の地震と津波の専門家の教授を入れて貞観津波(869年)などの過去の歴史を調べて敷地高さを14.8mに決めていた。その女川原子力発電所では2022年12月、2号機の再稼働に向けて地元の人々も加わり安全対策工事完遂のための総決起大会が大漁旗のはためく中で開催されている。原子力発電所の安全性確保と安定運転のためには、地元の人々の全面的な支援が必要なのだ。すべての安全対策工事と総点検、総合負荷性能検査を終え、女川原子力発電所2号機は再稼働を実現した。
・太陽光や風力発電で効果的にCO₂の排出係数を低減できた国は存在しない。2050年のカーボンニュートラル達成のためには、火力発電所から、次第に原子力発電所に置き換えていかなければならない。日本の原子力技術は大きな世界貢献の時を迎えている。筆者としても、2050年までのカーボンニュートラル達成と日本の電力網の安定化に大きく貢献すべく、世界のBWRグループに負荷追従型BWRであるGX BWR‒1000の提案と普及を図っていきたい。
せとふみのereport プラス
エネルギーミックスを支える現場から―技術者たちの思い―~リサイクル燃料貯蔵株式会社~
(本文要約)
・青森県むつ市に立地するリサイクル燃料貯蔵株式会社(略称RFS)は、原子力発電所から発生する使用済燃料を再処理するまでの間、安全に貯蔵・管理することを目的に、日本で唯一の使用済燃料中間貯蔵事業者として2005年11月に設立され、2024年11月に事業が開始された。
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・エネルギー資源に乏しい日本では、原子力発電は安全性の確保を大前提に、エネルギーミックスの中で重要なベースロード電源とされている。資源の有効利用などの観点から、日本では原子燃料サイクルの推進を基本方針としており、使用済燃料中間貯蔵は、この原子燃料サイクルの一翼を担う重要な事業と位置づけられている。
・原子力発電所で発生した使用済燃料集合体は、「キャスク」と呼ばれる全長約5.4m、直径約2.5mの円筒形の金属容器に格納される。再処理されるまでの間、このキャスクを安全に保管しておくのがRFSの役割である。約3,000tを保管できるリサイクル燃料備蓄センター1棟目に2024年9月、最初のキャスクが搬入され、貯蔵が始まった。将来的には、2,000tを保管できる2棟目も建設し、合計5,000t規模の貯蔵能力を有する予定。
・RFSは会社設立段階から、経験豊富なほかの電力会社や関連企業からの出向社員で構成されていたが、将来の貯蔵業務を見据え、2016年から新卒社員を直接採用し、育成している。その1人が、貯蔵保全部保全グループと貯蔵グループを兼務する技術者の山本海さんだ。重要な役割のある事業を進めている中間貯蔵施設のメンバーとして安全管理という責務の一端を担うべく、設備の保全管理については自分がいちばん詳しい人になる、という自覚を持って業務にあたっている、と話す。
・一方、入社2年目の北上詩織さんは、それまで出向社員のみで構成されていた技術安全部技術グループに初めて新卒社員として配属された。各種会議の資料をとりまとめ、実際の会議進行や議事録の作成を行ったり、社外の技術情報を集めるなど、各グループをつなぐ要の役割を担っている。ほとんど英語で専門用語も多い原子力規制委員会・IAEAによる査察・保障措置関連の業務も一人でできるようになりたい、ほかのグループの仕事にも広い視野で目を向けていきたい、と話す。
・今回の取材により、山本さんや北上さんなど地元出身の社員が成長し、バトンがしっかり引き継がれ、脱炭素社会や日本のエネルギー自給の一翼を担う「原子燃料サイクル」を支えるRFSの未来を感じることができた。
教えて!坪倉先生 気になる“ ほうしゃせん”
福島第一原子力発電所事故からの教訓 ―その1― 「屋内退避」の重要性
福島県立医科大学 医学部放射線健康管理学講座 主任教授 坪倉 正治氏
以上

