エネルギーミックスを支える現場から―技術者たちの思い―
~東北電力・東北電力ネットワーク~
サイエンスライター 瀬戸 文美氏
東北電力ネットワーク株式会社 中央給電指令所
・東北電力ネットワーク中央給電指令所は、東北6県と新潟県をカバーする広大なエリアの電力供給を、24時間365日体制で監視・制御している。また、電気の使用量と発電量のバランスを常に一致させる需給運用業務は、東北・新潟エリアで唯一、中央給電指令所が担う重要な役割である。「再エネの固定価格買取制度(FIT)」の導入などを背景に、東北・新潟エリアの風力発電や太陽光発電が拡大してきた。しかし、太陽光や風力といった再エネによる発電量は、天候や季節によって大きく変動する。再エネによる発電量が多く、火力などの調整電源の発電力を抑えても電力の供給が需要を上回りそうな場合、国の定めた優先給電ルールに従って、中央給電指令所が太陽光や風力発電の出力制御を行う。
・出力制御必要量の算定、翌日・翌々日の計画立案、当日の調整などの一連の業務を担当しているメンバーの一人が、中央給電指令所主務の青柳伸さん。「東北・新潟エリアで唯一の需給運用業務を担う職場で、ほかの職場では経験できない専門性の高い業務に携わることができる。自分の判断や操作が地域全体の電力の安定供給に直結しているという責任感と緊張感はあるが、社会インフラを支えているという実感は、非常に大きなやりがいにつながっている」と話す。
東北電力ネットワーク株式会社 中仙台変電所
・発電所でつくられた電気は、送電時のロスを減らすため15万4,000Vなどの特別高圧に昇圧されて送電線で運ばれる。途中で段階的に電圧を下げ、6,600Vで配電線を巡り、最終的には電柱に設置されている変圧器で100Vや200Vに変換されて住宅に届けられる。変電所は、電圧を変える、電気を配分する、設備を切り替える、という役割を担う電力流通の拠点である。そのうちの一つ、中仙台変電所は、仙台市内の電力需要増加に対応するために2007年に建設された。仙台市中心部にあることから、地上1階・地下3階建という変電所としては珍しい屋内型・地下多層構造の変電設備である。
・中仙台変電所は普段無人で遠隔監視されており、点検や巡視、故障など不具合のときには2人一組で対応する。担当者の一人である仙台電力センター変電2課の早坂壮太さんは入社2年目。「中仙台変電所は特殊な設備が多く覚えるのに苦労するが、わからなかったことがわかるようになった瞬間がうれしい。いずれは担当者として、一つの工事の計画をつくりあげて最後まで完了できるようになりたい」と語った。
東北電力株式会社 事業創出部門
坂東蓄電所1号合同会社 弥藤吾蓄電所 韮塚蓄電所 小角田蓄電所
・再エネの導入が進む中、再エネの出力変動に柔軟に対応するため、東北電力が今年新たに始めた取り組みが「系統用蓄電池事業」だ。系統用蓄電池は再エネ電源や需要設備に併設される従来の蓄電池とは異なり、電力系統に直接接続されるため、電力システム全体の需給変動への対応に活用が可能であり、近年重要性が高まっている。また、この系統用蓄電池を活用して市場取引で収益を得るという新規事業は東北電力として初めて取り組むもの。東北電力では、みずほリース株式会社の100%子会社であるエムエル・パワー株式会社と共同で、坂東蓄電所1号合同会社を設立。2025年3月に弥藤吾蓄電所(埼玉県)、6月に韮塚蓄電所、小角田蓄電所(ともに群馬県)が営業運転を開始した。
・この事業を担う一人が、事業創出部門次世代エネルギーユニットの森川大誠さん。森川さんは2025年4月に入社したばかりの新入社員。蓄電所の収益管理やデータ分析を担当し、各蓄電所の電力量を確認しながら、天候などの影響を検討しつつ充放電の最適時間帯や空調電力の消費傾向を分析している。「系統用蓄電池事業は、市場や制度、補助金、再エネの動向などが複雑に絡み合っているので、局所的ではなく広い視点を持って全体像を把握する必要がある。今後も自分が得意とする〝伝えること〟を生かして、系統用蓄電池事業の認知度向上ひいては再エネの促進に貢献したい」と話す。
・場所は違えど、一つの電力ネットワークの「輪」の中で、若手の技術者・社員が先輩方に見守られ励まされながら、それぞれの場所で仕事をしている。どこでもいつでも安定した電気が使える日常は、そうした人たちの努力、そして先達から引き継がれてきた知識や技術によって守られていることを、今回の取材を通じてあらためて感じた。

