東北エネルギー懇談会

ひろば515号|特集2 <要約版>

電力の需給逼迫招いた自由化
供給力強化へ電源投資促す制度を
産経新聞東京本社 論説委員室 論説副委員長 井伊 重之氏

・岸田首相は今年8月のGX実行会議で、日本として原発の新増設や建て替えに取り組む姿勢を明確に示した。政府は年内に、次世代原発の開発・建設や既存原発の再稼働促進、運転期間の延長などについて、具体的な方向性を提示する予定だ。それが、日本のエネルギー安全保障を確立することにもつながるだろう。

 

・しかし、原発の再稼働は23年夏以降の見通しだ。何より、電力自由化や脱炭素化に伴い、老朽化した火力発電所の休廃止が当初の予想以上の速さで進んでおり、火力発電の退出抑制や新規電源投資を促す制度を同時に整備しなければ、慢性的な需給逼迫を脱することはできない。それだけに電力自由化の見直しは急務だ。

 

・2016年4月の電力小売の全面自由化に合わせ、政府は火力発電の休廃止を事前届け出から事後届け出に改めていたが、最近の相次ぐ電力需給逼迫の状況から、火力発電の休廃止には再び事前の届け出が求められるようになった。この変更は、電力自由化の制度設計が実態に合わなくなったためであり、自由化のあり方をあらためて点検する必要がある。

 

・小売全面自由化後、発電事業者は稼働電源を必要最小限に絞り、休止電源を増やす傾向にある。卸電力価格の低下が続いたため、市場原理により、発電コストが高く老朽化した火力発電は休廃止に追い込まれている。こうした火力発電の退出が、現下の供給力不足となって顕在化している。現在休止中の発電設備の管理も問われる。予備的な電源として維持するための休止には、公的な支援を講じるなどの工夫も求められる。

 

・供給力の増強には、新規の電源投資への回収予見性を高める必要もある。経産省では投資回収の予見可能性を確保しながら、「長期脱炭素電源オークション」を導入する計画だ。入札の対象は、発電時にCO₂を排出しない電源への新規投資。入札時にはアンモニアや水素の混焼火力発電など技術開発途上のものに対して最低容量を引き下げるなど、実効的な対策も必要だろう。

 

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