エネルギーミックスを支える現場から―技術者たちの思い―
~東北大学大学院工学研究科 量子エネルギー工学専攻
核エネルギーフロー環境工学分野 千田・関研究室~
サイエンスライター 瀬戸 文美氏
・東北大学大学院工学研究科量子エネルギー工学専攻の核エネルギーフロー環境工学分野「千田・関研究室」は、放射性廃棄物の地下埋設処分後、何千年、何万年という超長期的なスパンにおいて放射性物質を安定に閉じ込める「バリアシステム」に関する研究を行っている。
・研究室を率いる准教授の千田太詩(ちだたいじ)先生は、助教の関亜美(せきつぐみ)先生と事務補佐スタッフ、大学院生7名・学部生4名の学生とともに、物質や熱・エネルギーがどのように地層内を移動していくのかを調べる移動現象論や、物質同士が接した場合にどう変化するかを知る反応工学、地層がどのような構造・性質になっているかを知る地球化学、放射性物質がどう振る舞うのかを調べる放射化学など、多くの学問に基づく「原子力バックエンド工学」に取り組んでいる。
・千田・関研究室の重要な研究テーマの一つが「放射性廃棄物処分システムが持つ、バリア性能の自己修復・向上効果」に関する研究である。放射性廃棄物の地層処分施設をつくるときに欠かせないのが、コンクリートやモルタルなどセメント系材料。これらは地下施設の構造材として使われるが、地下水と接することで、水酸化カルシウム(Ca)や水酸化ナトリウム(Na)などのアルカリ成分を溶出させ、周囲の地下水をpH12〜13ほどの強いアルカリ性にする。このアルカリ性の水が岩盤に広がるとどうなるのか? 実は、これが長年の懸念材料だった。つまり、セメントから溶け出したアルカリ性の水が岩盤を溶かし、細かい亀裂を広げてしまい、地下水が流れやすくなってしまうのではないか。そうなれば、天然バリアの閉じ込め性能が低下してしまうという懸念があったのである。
・ところが、地下環境で生じる現象を深く掘り下げて研究した結果、意外な事実が見えてきた。高アルカリ性によって一時的にはケイ酸が地下水中に溶け出してしまうが、さらに時間が経過したり、セメント材料から少し距離が離れてアルカリ性が弱まることで、地下水に溶け込んでいたケイ酸が周囲の岩盤の中で固体化し、「二次鉱物」と呼ばれる新しい鉱物を生成する可能性があるという。これにより、一度は広がった亀裂が閉じられ、放射性物質の流出を食い止めるとともに、この二次鉱物が元の岩盤よりもより強く放射性物質を吸着する可能性がある。
・「私たちの研究成果に基づけば、将来的には岩盤のバリア性能が自己修復し安定することが期待され、処分システムの信頼性をより高めていけるかもしれない」と千田先生はこの研究の意義と未来像について語る。研究室では、実際に花崗岩の表面にカルシウムを含む高アルカリ性の水を流す実験を行い、水を流した後の花崗岩の表面に微少な凹凸が生成することを確認している。
・もう一つ、カーボンニュートラルの観点からも興味深い千田・関研究室の研究テーマが、フライアッシュ(微細な石炭灰)の活用だ。一般的なセメントの原料は石灰石と粘土などを高温で焼いてつくるため、その過程で二酸化炭素を排出するが、一方、フライアッシュは追加で焼く必要がないため、新たな二酸化炭素をほとんど出さない。火力発電所で石炭を燃やした際に発生するフライアッシュを、セメント原料の一部として地層処分場の建設に活用することで、地層処分における二酸化炭素排出量の削減が期待できる。「廃棄物を処分するのに、別の産業副産物を使う。そしてそれが二酸化炭素排出量の削減にもつながる」と千田先生。
・千田・関研究室では、フライアッシュを混ぜたセメント系材料が放射性物質をどれだけ吸着できるのか、有害成分を内部に固定し続けられるのか、長期間にわたって安定な状態を保てるのかといった点を、実験とデータ解析で入念に調べているが、その研究を加速させたのが、助教の関亜美先生だ。研究室内での綿密な情報共有を大切にするとともに、ときには学外の研究者との協業やナノテラスを活用した最先端の分析・解析を取り入れたりと、新たなフィールドを切り開いている。「自分自身の研究成果が認められることももちろんだが、指導している学生がそれまでの試行錯誤や苦労を経て、学会や学位審査の際に堂々と発表してくれる姿を見るのは励みになる」と関先生は話す。
・エネルギーミックスを支えるのは、発電所や送電網といった目に見えるインフラだけではない。その背後には、バックエンドという「見えない課題」があり、それに向き合う研究者たちがいる。第7次エネルギー基本計画では、原子力発電を現状の9%から2040年度に2割程度まで引き上げることを見込んでおり、それに伴う放射性廃棄物の排出も避けられない。その「出口」となるバックエンドの確実な道筋を研究し続けている千田・関研究室の取り組みは、原子力を責任を持って使い続けるための、なくてはならない基盤研究であると実感した。

