日本が蓄積した高度な技術を基にして
より安全性が高く、信頼される
原子力発電が可能になると思います。

日本の将来のために、フランスや
スウェーデンでのエネルギー選択の考え方を
ぜひ参考にしてほしいですね。

フランスの原子力関連企業コジェマ社、アレバ社に勤務後、日本の三菱原子燃料
副社長を経て、2011年12月より現職。原子力政策に関する交流活動などに従事。

(りゅう けいすけ)1984年よりスウェーデン大使館にて日本・スウェーデン両国間の技術、産業、文化交流の促進に従事。

日本と同様に資源小国のフランスやスウェーデンの電気を支える原子力

グゼリフランスは日本と同様、エネルギー資源に乏しく、自給率は約8%です。1950年代から水力発電の開発に取り組みましたが、ほとんどが石油の輸入に頼っていました。ですから1973年のオイルショックのときは本当にショックでした。それで、このことが省エネと原子力発電の開発を進めようというエネルギー政策へ転換するきっかけとなりました。燃料のリサイクルも進めればエネルギー自給率をさらに高められると考えたのです。

今、原子力はフランスの電気の約80%という主力の電源になったのですね。

グゼリそうです。フランスの電気を支える大きな柱です。そのほかの電源は水力が12%ほどで、残りは石油や天然ガス、風力などです。

スウェーデンにも石油や石炭、天然ガスなどの化石資源はほとんどありません。しかし豊富な水力資源があるので、電気は水力が40%ほど、そして原子力も同じくらい40%ほどをまかなう重要な電源となっています。残りが化石資源とバイオマス・廃棄物、風力などです。
 スウェーデンは原材料を輸入して、ユニークな製品を開発し輸出することで成り立っています。モンキースパナやファスナー、シートベルトなど、いろいろなものを発明しているんですよ。日本も貿易大国ですが、GDPに占める輸出の割合は16%程度。スウェーデンは56%が輸出です。製品づくりのもとになるエネルギーは、できるだけ国内で自給しようという考えが強いのです。

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原子力推進から脱原子力へ、そして再び原子力の活用を選んだスウェーデン

グゼリスウェーデンでは、オイルショックのときはどうでしたか。

1970年頃は発電の約80%が水力で、石油は約20%でした。しかし、寒波が来て、さらにオイルショックで石油の供給量が減り、価格が跳ね上がりました。そのため、ストーブが焚けない家庭も出てきた。スウェーデンの冬は非常に寒くて零下20℃にもなりますから、エネルギーは人の生死に直結する問題なのです。それで、フランスや日本と同じように自給できるエネルギーとして原子力発電に取り組んだわけですね。

グゼリところが、1979年にアメリカのスリーマイルアイランド原子力発電所で事故が起こり、スウェーデンは脱原子力に政策を転換しましたね。

スリーマイルアイランドの事故を受け、国民の原子力開発に対する危惧が高まりました。
 それで1980年に国民投票をして、12基すべての原子炉を2010年までに廃止すると決めました。実はこれには条件があって、原子力は電気の25%ほどをまかなっていましたが、その半分は省エネで、また残り半分をまかなえる代替エネルギーが開発されたら原子力をやめようということだったんです。
 しかし、太陽光や風力などの開発が思ったほど進まなかったことから、結局、原子力全廃の方針を撤回して、2010年には原子炉の建て替えも認められました。建て替えできずに電力の供給が不安定になれば、輸出する製品がつくれず、暮らしや産業に大きな影響が出てしまうからです。

グゼリフランスでも電力の安定供給は重要ですし、電気料金が上がれば経済に悪い影響が出てしまいます。ですから、値段の高い石油はあまり使えない。フランスはヨーロッパでも電気料金の安い国です。それは、原子力でたくさんの電気を安定して発電しているからです。しかし、ウランもいつかはなくなる心配があるから、フランスでは使用済みの核燃料を再処理してリサイクルをしています。ウランというエネルギー資源を無駄なく有効に利用していくことは、日本と同じ考えです。

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正確な情報公開によって、国民との信頼関係を築くフランス・スウェーデン

グゼリ資源に乏しく、エネルギーや原材料を輸入して付加価値をつけて輸出している点では、フランスとスウェーデンは日本と似ていますね。

しかし、フランスとスウェーデンがしっかりとしたエネルギー政策のもとで原子力や水力などを大事に使っているのに対し、今の日本はかなり揺れ動いています。

グゼリフランスでは2005年に「エネルギー政策指針法」が制定されました。国会でしっかりと議論をして、原子力をメインのエネルギーに使い、再生可能エネルギーにも原子力と同じ研究開発投資をすると決めました。
 オランド大統領は、原子力の比率を下げる方針を打ち出しています。将来の電力需要が、たとえば電気自動車の普及などで大幅に増大した場合、2025~2030年頃の電力需要の50%は原子炉58基の発電電力量に相当するため、増大した電力需要はできるだけ再生可能エネルギーでまかなおうということです。
 自治体をはじめ国民も参加して討論をしていて、2013年の秋くらいに新たな法律が制定される予定です。

今の日本のエネルギーに関する議論は地に足がついていない感じがします。スウェーデンの国民がちゃんと議論ができるベースは、情報の透明性だと思います。原子力のリスクに関する情報を100%公開しています。残念ながら日本ではまだそこまでいっていないと思います。そうなると国民はメディアの情報を信じてしまいがちですね。

グゼリフランスでも原子力安全規制当局(ASN)は「この原子炉はここを直してください」といった情報を公開していますから、国民はそれぞれの原子炉の状況が分かっていて、それが信頼性の向上につながっています。

スウェーデンの緑の党は当初、とにかく原子力反対だったのですが、情報を100%公開したら彼らもよく勉強して、話し合っていくうちに信頼関係が生まれました。今は「いずれは原子力をやめましょう。それまで安全にやってください」という考えです。

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日本人にも、エネルギー問題を自分の問題としてとらえ、考えてほしい

日本には中央政府があって、都道府県があり、市町村がありますが、スウェーデンには都道府県にあたるものがありません。ですから町や市の議員に意見をいえば、それが政府の意思決定に反映されやすい。自分の意見が反映されることが、エネルギー問題を自分の問題としてとらえる「エネルギーデモクラシー」の下地になっているのだと思います。一方で日本人は他人の意見に流されやすい傾向があるように思いますね。

グゼリ文化の違いは仕方がありませんね。でも、以前、日本の大学生たちがフランス大使館へ原子力関係の勉強をしに来たことがあるのですが、最後にきちんと自分の意見をいってくれました。私の子供は東京国際フランス学園で、いろいろな調査とか自由研究とかディベートをかなりやっています。日本の学校ではディベートはあまりやりませんが、若者たちはちゃんと意見を持っていると思います。

若者たちにはそうあってほしいですね。教育のことでいいますと、スウェーデンの先生は子供に質問はしても答えはいわない。スウェーデンはユニークな製品をつくらなければやっていけませんから、技術革新を進めていくためにも、子供に考えさせる教育を1960年代から続けています。

グゼリ日本もディベートの機会を増やし、子供に考えさせる教育に力を入れ、職場でも自分の意見をいわせる雰囲気をつくれればいいですね。

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廃棄物や下水の熱を利用した発電、断熱などの省エネにも目を向けるべき

グゼリところで、スウェーデンでは再生可能エネルギーの見込みはどうですか。

国では再生可能エネルギーの拡大をめざしていますが、国民はクールに構えていて、あまり期待していないようです。原子力を安全に使い、水力も使い、省エネも進めていけば、電力の安定供給は心配ないとみているんです。実は風力発電は200基ほどの建設計画があるのですが、立地地域の人たちがノーといっている。景観が悪くなることと、低周波ノイズの問題からです。また、緯度の高い国なので太陽光発電は不向きです。
 それよりも廃棄物や下水汚泥から発生させたバイオガスや、下水の熱を利用した発電が有望です。ヒートポンプなどの技術は日本が世界一ですから、こうした取り組みを日本ももっと進めるべきだと思いますね。

グゼリヨーロッパでは建物の断熱にも力を入れています。フランスから日本へ来るとみんなびっくりするんです、家の中が寒くて。日本でもビルの断熱は法律で決められているようですが、一般の家でも進めたらどうでしょう。

スウェーデンの家は厚さ20センチくらいの断熱材が入っていますし、窓や扉は二重か三重が普通です。日本も省エネの余地はまだまだありますね。

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日本が蓄積した原子力の技術を活かして、世界に貢献することが重要

グゼリアジアだけをみても中国や韓国は原子力を進めていますし、ベトナムやマレーシア、インドネシアなども導入を考えている。原子力の分野で高い技術と経験を持っている日本は、これからも国際的な貢献をしていくことが大事だと思います。これまで積み重ねてきた技術を無駄にしてはいけません。

その通りだと思います。スウェーデンは大失敗をしたんです。1980年に原子力全廃を掲げると大学の原子力学科に学生がいかなくなった。発電所をつくる知識や技術をなくしてしまったんです。発電所をつくる確かな技術のある国はフランスと日本ですから、協力し合っていく必要がありますね。

グゼリ高レベル放射性廃棄物の処分でも各国の国際的な意見交換などが重要ですね。

はい。スウェーデンは使用済みの核燃料をそのまま直接処分しますが、2009年にエストハンマル自治区に処分場をつくることが決まりました。この処分場の決定でも情報公開が大きな役割を果たしました。日本でも参考になると思います。

グゼリフランスは日本と同様、使用済みの核燃料を再処理してリサイクルをして、残った廃棄物を最終処分する計画ですが、将来もっと技術が進めば廃棄物にする予定のものも燃料に使えるかもしれないといったことも視野に入れています。2015年には処分場の場所が決まる予定です。

日本の政治家やメディアの皆さんには、ぜひフランスやスウェーデンの状況を見て勉強してほしいと思うんです。そしてエネルギーのことを自分のこととして広い視野で考えてもらいたいですね。

グゼリそして、原子力については安全の基準を高め、改善をして将来のために活用していくことが大事だと思いますね。

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